第34回(平成17年)春燈賞 太田 佳代子

春燈賞(抄)25句 自選

早春や波引くあとを砂が追ふ
海の風光る真砂女の忌なりけり
歩き出せば遠き目となる遍路かな
春の水日陰に深さ増しにけり
振返る海に音無し春の昼
大川のみづの膨らみ夏燕
さざ波の一枚ごとの代田かな
夕さるや明日へ吹きそむ代田風
あぢさゐの葉の押上ぐる花の数
たいくつな日や口元へさくらんぼ
白玉や母ある頃の反抗期
日盛りを歩むほかなく歩みけり
傘一本のこる大甕蝉時雨
母のゐし町片影の多き町
ふるさとや暮れゆく夏の日の重さ
後退る波ばかり見て秋の浜
研ぎし米平らに均す良夜かな
息を吐くたびに眠りへつく良夜
山茶花やさみしくはなき距離をおき
本抜けば本寄りかかる今朝の冬
影のごと八手の花の隣り合ふ
数へ日のその一日の暮れゆきぬ
夕映えや水のしたたる鴨の嘴
合挽きの肉練りつづく冬の夜
空壜に硬貨落して冬ぬくし